事実の報道か方針の報道か—「独自」の「方針の報道」は「嘘から出たまこと」を引き出せる

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【これは約 10 分の記事です】

セキュリティ研修講師、防災SNSアドバイザーの佐藤英治です。

ネット上で新聞社の記事などを見ていると、「独自」とタイトルが打たれているものがあります。これは、

新聞社が独自に情報を取ってきたニュース

の場合にタイトルにつきます。独自記事、配信元の取材努力によるものですが、

ちょっと待って

その記事、信じていいの?

というお話です。

「事実の報道」か「方針の報道か」

事実の報道で、それが独自であれば、それはスクープです。裏付けがしっかりしていれば、信用していいと思います。

問題は方針の報道だった場合。その報道、「嘘から出たまこと」を狙っていませんか?

2019年型コロナウイルスで、マスクの品薄対策としての再利用可能周知の検討

2019年型コロナウイルスの報道で、このようなものがありました。テレビ朝日のニュースです。「独自」なので、他社はこのような報道をしていません。

【独自】経産省が「マスクは再利用可能」周知を検討[2020/03/02 23:06]

この記事によると、

新型コロナウイルスでマスクが品薄となるなか、経済産業省が消毒液を付けることでマスクの再利用が可能だと周知する方向で検討していることが分かりました。

となっています。が、

なぜ経産省が「独占的にテレビ朝日だけに検討方針を伝えるのか」

内容的に一つの新聞社に独占的に伝えるような方針ではありません。また、本当にこの情報、出所が経済産業省なのか疑わしいです。また、なぜ厚生労働省ではなく経済産業省なのか。フェイクニュースの可能性を疑いました。

そう思っていたら、続報が出ました。

「マスク消毒すれば再利用OK」経産省検討 効果は?[2020/03/03 20:19]

今度は「経済産業省の幹部」からの話とのことです。

出所について権威をつけたいのでしょうか。わざわざ「幹部」とつけていました。しかし、この幹部、科学的な見地を持っていて、その分野に責任がある幹部でしょうか。幹部なのはあっているとしても、その幹部一人の考えの可能性があります。

さらに疑問なのは、

プロフェッショナル心理カウンセラー・浮世満理子氏

という、衛生面のエキスパートではないプロを持ち出し、

「私はこんなに気を使っているでしょというような、自分はこれだけ健康に対して意識が高いというアピールにはなる。もっともらしいというのがすごく大切で、口と鼻を覆うということが非常に効果があるような錯覚を起こしている」

と「意識高いアピール」「錯覚」とマスクを着けている人たちを卑下する表現を使っている点です。何の脈略があるのか。

そしてもっとおかしいのが、段落続き方。引用します。

 WHO事務局次長:「マスクの着用をしなくても感染の危険性が高まるわけでない」
過剰に使われることで、必要な人にマスクが行き渡らなくなるというのです。ただ、日本人にとってマスクには特別な意味がありそうです。心理カウンセラーもマスクには心を癒やす役割があると分析。
 プロフェッショナル心理カウンセラー・浮世満理子氏:「私はこんなに気を使っているでしょというような、自分はこれだけ健康に対して意識が高いというアピールにはなる。もっともらしいというのがすごく大切で、口と鼻を覆うということが非常に効果があるような錯覚を起こしている」
こうした背景があるのでしょうか。幹部によれば再利用は2、3回程度は可能だといいます。その一方で医療関係者や感染の疑いがある人は再利用はNGとしています。

「こうした背景」の「こうした」。前の段落を受ける代名詞としておかしいでしょう。赤字の部分(ただ、日本人にとって~錯覚を起こしている」)がないほうが、文章として自然です。わざわざ心理カウンセラーによるディスり文章を途中で入れてそこまで再利用しないマスクの使い方をする人を卑下したいのでしょうか。

本当に「組織を代表した」検討情報か

ここで、私はこんな疑いを持ちました。

  • この「方針」、「組織を代表した方針」ではない
  • 一部の人間による思い付きに過ぎない可能性が高い
  • 自分の思い付きを採用させるために「独自に」報道させ、その方針が既成事実であるかのようにしたかった

つまり「嘘から出たまこと」を狙ったもの。報道になった以上、それを嘘にするわけにはいかないので、一部の人間による思い付きでも組織全体としての検討として取り扱わざるを得なくさせるために「独自に」一つの新聞社に報道させているのではないか、という疑いです。

この報道を疑わしいと思うメディアがあっても不思議ではありません。J-CASTニュース が経産省に質問を投げました。

「マスク再利用可能を周知」経済産業省は否定 ずっと着けなくても…本当に必要な人は誰

経産省の窓口は否定しました。ただ、こうも言っています。

経産省広報室担当者は取材に対し、全国マスク工業会などとやりとりするなかで、「専門団体側が『マスク再利用に関する周知を行う可能性がある』とした」と話した。今後「マスク再利用を促す」情報が発信されるとしたら、その主体は「経済産業省でなく専門団体になる」と述べた。

「再利用に関する周知」であって、「再利用が可能であることを周知」ではないのです。

実際に全国マスク工業会は、3月5日にマスク再利用について周知を行いました。もう一度書きます。行い「ました」。2020年3月6日の時点で過去形で書いています。その理由は後述。

全国マスク工業会は3月5日には否定した

マスク再利用について、3月5日にこういうニュースがテレビ朝日から流れました。

“マスク再利用”表記なければ「オススメしません」[2020/03/05 18:26]

全国マスク工業会は、1度使ったマスクの再利用について、洗って繰り返し使えるという表記のない製品については、洗うと機能が落ちるので「お勧めできません」とする指針を示しました。

そして、その周知は、日本衛生材料工業連合会のウェブサイトでPDFで提供されました。もう一度書きます。提供され「ました」。

日本衛生材料工業連合会

結果的に、最初のニュースはフェイクニュースになりました。

ただ、完全にマスクの再利用を否定したわけではなく、「どうしてもせざるを得ない場合」についても書かれていました。「マスクを再利用できる発表にして欲しい」という意見に対して忖度が働いた可能性があります。

その部分を引用したかったのですが・・・実は。

3月6日に全国マスク工業会のPDFが削除される

この周知のPDFファイル、3月6日の時点で日本衛生材料工業連合会のサイトから削除されています。理由はわかりません。

陰謀論好きな方であれば「恥をかかされた形になる経済産業省の幹部が怒って圧力をかけて取り消させた」と解釈するのかもしれませんが、残念ながらそう言い切るほどの判断材料はありません。

また、逆に「仕方なく忖度して再利用不可能なマスクについての再利用方法を書いたが、やはり良くない」という考え方が働いて削除したのかもしれません。

ただ、すくなくとも、再利用の方針について、足並みがそろっていないということは言えそうです。足並みがそろっていれば削除などしません。

独自の「方針の報道」は、正式な方針の意思決定に影響を及ぼす

正式な方針が発表される前に報道させる「独自に取材した」「方針の報道」は、正式な方針の意思決定に影響を及ぼします。

使い方として、「一部の人間しか同意していない方針をあたかも全体の方針として固まりつつあるように見せて、実際にその方針を選択せざるを得なくする」ということができます。

最初は嘘だった方針を、本当のことにできてしまう可能性があるのです。

フェイクニュースになるか「嘘から出たまこと」になるか

正式決定ではない方針を報道し、そのあとでその決定が結局その通りにならなかった場合、独自ニュースはフェイクニュースになります。独自情報の発信元は恐らくそれを避けたいと思うでしょう。何としてでも「本当の」方針にしようとするでしょう。

ニュースを見る側は、意思決定の派閥争いに巻き込まれた状態で方針を見ることになります。

「正式に決まっていない方針の独自報道」は意思決定操作の可能性も疑う

方針の独自報道は、疑いの目をもって接したほうがいいでしょう。それは、意思決定の派閥争いに勝つために見せられているニュースの可能性があります。

  • 事実の報道か
  • 方針の報道か

を意識し、「その方針の報道の情報の出どころはどこか」「何故正式報道の前に「独自で」その情報が伝えられたか」

といったことを考えながら報道を見ていただければよいかなと考えます。

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